革財布の作り方 Vol.3 ラウンドファスナー財布が生まれたとき
3. ラウンドファスナー財布が⽣まれた時
「⻑財布」と⾔われたときに思い浮かべる形はどんな形でしょうか?
例えばフタを上下に開閉して開くタイプ、半分に折れる⼆つ折りのタイプ、⼤きな⼩銭⼊れをもつギャルソンタイプ、がま⼝付き⻑財布…。
細かく⾒ていくと、⼀⼝に「⻑財布」と⾔ってもたくさんの種類が存在します。
しかしその中でも「⻑財布」といえば、お財布の三辺をファスナーで囲んである「ラウンドファスナー(もしくはラウンドジップ)」タイプを思い浮かべる⽅は多いのではないでしょうか。
かつては⼥性ユーザーが多かったこの形は近年では男性にも広まり⻑財布でもポピュラーな形になっています。
実はこの「ラウンドファスナー財布」を⽇本で最も古くから製造しているのは、micを運営する⾰⼩物メーカー、ラモーダヨシダです。
ラモーダヨシダの創業者である会⻑の吉⽥蒼⽣雄に、ラウンドファスナー財布が⽣まれた当時のことを尋ねてみました。
旅の必需品から⽣まれたアイディア

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吉⽥は戦後間もない1953年に、当時旅⾏をする時に必ず持ち歩くものを⼊れるケースの製造するメーカーに就職しました。
旅に⽋かすことができないもの。それは「洗⾯⽤具」でした。
今でこそ格安のビジネスホテルにも最低限のアメニティグッズがあります。 しかし、当時のホテル・旅館にはそうしたものは⽤意されておらず、洗⾯⽤具は持参しなければなりませんでした。
そのために洗⾯⽤具⼀式をしまう⼊れ物、「洗⾯ケース」が必要だったのです。それは3⽅をファスナーで囲む形をしていました。
財布職⼈は作れない財布?

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洗⾯ケースの製造⽅法を熟知していた吉⽥は、これを財布にできないものか、と思案していました。
⼀⾒すると簡単に作ることができそうな洗⾯ケースでしたが、それを財布として仕⽴てることは簡単ではありませんでした。そこには2つの壁が存在しました。
1つ⽬は設備の問題です。
⽴体的な洗⾯ケースを縫うためには「腕ミシン」という、縫うものを置く台が無い、棒状の⽀えがミシン針の下にくるタイプのものを必要としました。


ところが、財布職⼈が持っていたのは、「平(ひら)ミシン」という机のような台がついたタイプ。
なぜなら当時の財布は平べったい形状でお札を⼊れる専⾨の「束⼊れ」や「がま⼝財布」が主流だったので、腕ミシンは不要だったからです。
そしてもう⼀つの壁は、ファスナーです。
当時のお財布にはファスナーを付けない、もしくはファスナーの代わりにがま⼝をつけていました。 そのため、洗⾯ケースのようにファスナーを縫い付ける術を財布職⼈たちは知らなかったのです。
ファスナーは縫う前に本体のパーツに仮⽌めしなければなりませんが、フリーハンドでまっすぐに貼りこむことはできません。 もちろん時間をかければ不可能ではありませんが、⽣産の効率が著しく落ちてしまいます。
そのために、洗⾯ケースの職⼈たちは⽊やボール紙を⽤いて、貼りこむための型を作っていました。型があれば作業のスピードは⼀気に上がります。

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吉⽥はそうした製造のノウハウを熟知していたので、ラウンドファスナー財布の製作を洗⾯ケースの職⼈たちに頼みました。
時は1964年、その時すでに吉⽥は洗⾯ケースメーカーから独⽴し、ラモーダヨシダの前⾝、「吉⽥製作所」を設⽴し、松が⾕に⼯房兼事務所を構えていました。 就職からおよそ10年。吉⽥のアイディアは現実のものとなりました。
あんたが⾔うならええもんなんやろ

「こんなもの売れない」、「売れるかわからないけどもとりあえず置いてみよう」と⾔った懐疑的な反応ばかり。
しかし、⾜を伸ばして訪問した関⻄⽅⾯の顧客は「あんたがそんなに良いというなら、ええもんなんやろう」といち早く採⽤してくれました。
その後、徐々に注⽂を増えていき、ついには⽣産能⼒を超える注⽂が⼊るようになりました。
吉⽥は財布職⼈たちにもラウンドファスナー財布を製造できるよう、腕ミシンの導⼊を説得して回りました。そうして財布職⼈たちにもその製造ノウハウが広がっていきました。


進化するラウンドファスナー


Vol3.完



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